<テーマ:花の香り>
花の香りは複数の香気成分から構成されており、モノテルペノイド・セスキテルペノイド・フェニルプロパノイド・ベンゼノイドなどの化学物質が中心です。このうちモノテルペノイドは、バラをはじめとする主要な芳香性花卉の香りを構成する香気成分であり、モノテルペノイドの生合成およびその分子機構(遺伝子)を解明することは、花の香りの育種を行う上で重要であると考えられます。しかし、主要な芳香性花卉であるバラのモノテルペノイド合成酵素遺伝子は未だに未解明で、その遺伝様式もいまだ不明のままです。そこで本研究室では、バラのモノテルペノイド合成酵素遺伝子の探索を行っています。
<テーマ:収穫後生理>
カンナ(Canna × generalis L.H. Bailey)の葉を収穫すると、葉の巻き込みを生じ褐変します。しかし、この生理障害は葉の齢や収穫する時間に依存します。古い葉ほど症状がひどくなりますが、夜明け前に収穫すると生理障害は生じません。蒸散量を調査すると、若い葉では収穫後に減少しますが、老化葉では収穫後に著しく増加しました。よって、この生理障害には気孔の開閉に伴う水分損失の関与が示唆されました。
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<テーマ:茎頂分裂組織・ウイロイド>
ウイルスやウイロイドは農業生産を著しく減少させる病原体です。これらは一度植物に感染すると除去が非常に難しいのですが、葉原基を取り除いた茎頂分裂組織を根端に置床する超微小茎頂分裂組織培養法を用いると、その再生個体は高確率でウイルス・ウイロイドフリー個体となります。この方法は、難除去性で感染によりキクの光周反応の阻害や節間の異常な短縮を引き起こすウイロイド、キクスタントウイロイド(CSVd)のフリー化にも利用できることが明らかとなりました。
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<テーマ:トウガラシに見られる温度依存的な反応>
セーシェル諸島在来のトウガラシ(Capsicum chinense)‘Sy-2’を日本で育成すると、季節特異的にすべての個体で縮葉の発生を伴う発育異常が観察されます。本研究では、温度と日長が‘Sy-2’の発育異常に及ぼす影響を調査しました。その結果、本現象は24℃周辺のわずか2℃の温度域を境として起こる温度依存的な反応であることが明らかとなりました。さらに、葉身の組織学的観察から、細胞分裂活性および分裂方向の異常により縮葉が発生することが示唆されました。
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<テーマ:培養変異・セントポーリア>
組織培養は植物の大量増殖に有効な手段ですが未だ実用化されていません。その原因の一つとして組織培養変異の発生があります。組織培養変異とは組織培養を行った際に培養後代に生じる変異の事で、高頻度で生じるために問題となっています。そこで、当研究室では、組織培養変異の原因の解明とその解決方法の開発について研究を行っています。 当研究室では組織培養変異を短期間かつ簡便に判定できるモデル植物として植物体からの再分化が容易なセントポーリアを用いています。セントポーリア‘タミレス’は花弁に斑点を持つ品種であり、組織培養によって不定芽を形成させると花色変異体を多発します。‘タミレス’から発生した様々な花色変異体をDNAレベルでの解析した結果、F3'5'Hプロモーター領域に存在するhATファミリーのトランスポゾンであるVGs1の脱離によって様々な花色変異が生じることを明らかにしました。また、トランスポゾンの脱離は花弁だけでなく葉でも生じていることを明らかにし、これらの変異を幼苗段階で検出できる遺伝子マーカーを作出しました。
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<テーマ:花色>
<ダリアの花色制御因子>
ダリア(Dahlia variabilis)は花色・花型・大きさが非常に多様な花卉です。その性質の複雑さには高次倍数性に由来する遺伝背景の複雑さが寄与していると考えられています。本研究室ではダリアの花色制御因子の解析を行うとともに、高次倍数性植物ならではの遺伝子発現制御機構などを研究しています。
<花色の不安定性>
同じ個体なのに、違う色の花が咲いているのを見たことがありませんか?こちらの枝では赤色の花が咲いているのに、あちらの枝では白色の花が咲いている。このような現象を示す植物の1つに複色花ダリアがあります(写真)。複色花ダリアでは品種本来の複色花だけでなく単色花を頻繁に生じることがありますが、この原因はエピジェネティックな(=遺伝子配列の変化を伴わない)変異であると考えられます。本研究室ではこの花色の不均一性を司るエピジェネティックな変異メカニズムを明らかにすることを目的に研究を行っています。
植物には黒色の花色を示す品種がありますが、これらはなぜ黒色を示すのでしょうか?そんな疑問に対して、当研究室では黒色ダリアを用いて花弁の黒色化メカニズムを研究しています。これまで黒色化は、色素の高蓄積が原因であるとされてきました。しかし、研究を進めていくうちに色素の高蓄積以外の様々な要因が関与していることが次々に明らかになってきました。本研究では花弁の黒色化メカニズムを解明し、様々な花卉における黒色花品種の作出を目指しています。
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<ダリアのアントシアニン合成制御因子>
●A bHLH transcription factor, DvIVS, is involved in regulation of anthocyanin synthesis in dahlia (Dahlia variabilis). J. Exp. Bot. 62: 5105-5116. 2011.
●A basic helix-loop-helix transcription factor DvIVS determines flower color intensity in cyanic dahlia cultivars. Planta 238: 331-343. 2013.
<花色の不安定性>
●Simultaneous post-transcriptional gene silencing of two different chalcone synthase genes resulting in pure white flowers in the octoploid dahlia. Planta 234: 945-958. 2011.
●Petal color is associated with leaf flavonoid accumulation in a labile bicolor flowering dahlia (Dahlia variabilis) 'Yuino'. Hort. J. 85: 177-186. 2016.
●Identification of flavonoids in leaves of a labile bicolor flowering dahlia (Dahlia variabilis) ‘Yuino’. Hort. J. 87: 140-148. 2018.
●Post-transcriptional silencing of chalcone synthase is involved in phenotypic lability in petals and leaves of bicolor dahlia (Dahlia variabilis) ‘Yuino’. Planta 247: 413-428. 2018.
<黒色花メカニズム>
●Endogenous post-transcriptional gene silencing of flavone synthase resulting in high accumulation of anthocyanins in black dahlia cultivars. Planta 237: 1325-1335. 2013.
●Tobacco streak virus (strain dahlia) suppresses post-transcriptional gene silencing of flavone synthase II in black dahlia cultivars and causes a drastic flower color change. Planta 242: 663-675. 2015.
●Quantitative evaluation of contribution to black flower coloring of four major anthocyanins accumulated in dahlia petals. Hort. J. 85: 340-350. 2016.